山陰中央新報コラム「羅針盤」第22回
- Mariko Watanabe
- 9月22日
- 読了時間: 3分

こんにちは、女将の麻里子です。
さて、地元紙「山陰中央新報」の日曜一面のコラム「羅針盤」の執筆を、タルマーリー渡邉格が担当しております!藤原辰史さん、内山節さんら著名人が順番に執筆、2カ月に1回くらい登場します。
第22回2025年9月21日掲載のコラムを、以下に転記します。
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3月の本欄コラムに「拠点をこれまでの山間部から移し、町の中心部に集約する」と書いたが、その移転が大詰めを迎えている。徒歩1分以内でお客さまが見て回れる4軒のモノづくりの現場、カフェ&ホテル▽パン工房▽ビール工房▽ギャラリーが、いよいよ今年中には完成予定である。
4軒すべて、空き家をリノベーションした。パン工房には製粉室を造り、高さ6メートルの製粉機の移設が終わった。そして、ビール工房はタンクなどの移設が終わり、保健所と税務署の許可が下りた。が、まだ旧工場にプレハブ冷蔵庫4台が残っている…。
さらに、先月はギャラリー兼自宅が完成。54歳では遅すぎたかもしれないが人生初のマイホームはうれしい。築42年の2階建て、1階は展示などができるギャラリーに改装した。パン工房でコーヒー豆の焙煎(ばいせん)やピザ生地の仕込み作業をしてみると、丁寧に改装と掃除をしたおかげで、ずっと居たくなるほど心地よい。
週末はカフェでピザを焼いているが、これまた心地よい。そして今、このコラムをギャラリーで書いている。以前は人が出入りするカフェで執筆をしていたのだが、ここはそれに比べてはるかに集中できる。
現代人は過度の緊張やストレスにさらされていることが多いから、交感神経の働きが優位になり、何かに違和感を覚えることが難しくなっているのかもしれない。リラックス状態に導く副交感神経を正常に戻すためにも、心地よい場所が必要だ。それで初めて、不快などの違和感からすぐに逃げることができるのだと思う。
不快から逃げることが大切だと気付いたのは、2年前に重度の糖尿病で入院した後だ。日々自分の血糖値が測れる機器を常備して観察してみると、食事以外で血糖値が上がる原因に、ストレスが大きく反映していることが分かってきた。
それからは自分が不快に思う物事を遠ざけるようになったのだが、2年たった今では、明らかに体調が良い。1年前から薬の服用をやめ、食事の仕方と運動で血糖値を抑えてきたが、このたびの引っ越しでさらに血糖値が下がった。人間がこれほど場所に影響されるとは思っていなかった。しかもこの4軒は私がデザインしたから思い入れがある。
建材には生命力が高いもの使うことを心がけた。照明などはアイアン、塗料はオーガニック。そして最大のポイントは、時代の波を乗り越えてきた古い材料を使ったことだ。例えば、無垢(むく)の一枚板で作られた中古のドアを選ぶ。床材は新しい無垢材を使用した一方で、建具や壁材にはできるだけ空き家4軒で使われていた古い杉板を再利用した。
その結果、改装直後の今は不揃(ふぞろ)いに見えるかもしれないが、年を経るごとに味わい深くなっていくだろう。人間は本来、生命力の強いものを美しいと感じ、それをいかに組み合わせるかがデザインではないだろうか。昨年も9月に麹菌(こうじきん)が採取できたことを書いたが、今月は2回も採取できた。なんとも気持ちは上向きで、50代で人生がこれほど楽しくなるとは、思ってもみなかった。







子どもが大学に入り子育てもひと段落、タルマーリーさん訪れてストレスフリーの環境を体感しに行きたいです。ちなみに原発事故後から子育ての指針として、密かにずっとフォローさせていただいています。