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山陰中央新報コラム「羅針盤」第20回

  • 執筆者の写真: Mariko Watanabe
    Mariko Watanabe
  • 3 日前
  • 読了時間: 3分

こんにちは、女将の麻里子です。


さて、地元紙「山陰中央新報」の日曜一面のコラム「羅針盤」の執筆を、タルマーリー渡邉格が担当しております!藤原辰史さん、内山節さんら著名人が順番に執筆、2カ月に1回くらい登場します。


第20回2025年5月11日掲載のコラムを、以下に転記します。

次回は2025年7月27日掲載予定です。「山陰中央新報」購読者の皆さん、ぜひ紙面をチェックしてください。


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 この春、パン製造を任せていたスタッフが、独立のために卒業した。そして私は、8年ぶりにパン作りの現場に戻った。


 長年離れていたことをまたすぐにできるのか。不安しかない。とにかく、カフェで提供するピザの生地を作るために、まずは3種類の酵母「酒種」「レーズン酵母」「ビール酵母」を準備する。


 特に酒種作りは非常に手間がかかる。初めに、野生の麹(こうじ)から作った米麹、乳酸菌を培養した水、炊いた米を合わせて冷蔵庫に入れる。2カ月待つと、甘いお酒の素(もと)ができる。それを常温におくと酵母が降りてくる。約1週間、1日に何度か味見をして甘みが切れる瞬間に「今だ!」と判断して冷蔵庫に入れる。


 次にレーズン酵母を1日かけて発酵させ、ビール酵母も用意する。これらの発酵のタイミングを合わせ、さらに小麦粉を熱湯で溶いて湯種を作り、やっと準備が整う。


 その後の工程もとにかく手間がかかるので、初めの生地作りは特に丁寧に行った結果、まあ及第点だった。それから数回繰り返すうちに感覚を取り戻し、そしてなんと8年前より技術が上がっていることを実感した。


 パン製造の中で、私は生地作りが一番苦手だった。理論を勉強するほどに細部にこだわり、目の前の現象よりも理論を優先してしまう。例えば、九州産の小麦はグルテンが弱いからなるべく生地を傷めないように…と考え、こね方を中途半端にしてしまう結果、全体のバランスを欠いていた。


 ところがこの春、パン修業を始めた22年前の右も左も分からない頃に教えてもらった生地作りの残像がよみがえってきた。「恐れず、ここまで攻めてもいい」と確信を持ちながら生地をこねた。そして、それが完成したとき恍惚(こうこつ)としていた。


 「これは本当によくできた」と感じたその生地で作ったピザを、ゴールデンウイークにタルマーリーのホテルに宿泊されたご家族の夕食に提供した。すると、8歳の娘さんから「今までの人生で一番おいしいピザ!」とお褒めいただいた。


素直にうれしかった。この子の言葉が、パン作りから離れていた8年を含め、これまでやってきたことすべてを肯定してくれたように感じた。


 正直、ここ数年は大変なことばかり続いた。病気や移転、事業の転換など…。「なぜこんなことになってしまったのか」と落ち込むこともあった。しかし今回パン作りを再開して、「すべて意味があって起こったことだ」と受け入れることができた。


 「善悪の判断や評価をせず、ただありのままを観察する」というマインドフルネスの意味が、少し分かり始めた。過去や未来を悩むよりも、大事なのは今なのだ。今この瞬間に集中すれば、何年か後に気づくことがあるかもしれない。


 目の前で焼けるピザに集中する。2~3分という短時間で、最高地点を目指す。焼き過ぎても生焼けでもいけない。その時その瞬間の生地と対話する。素直な心でありのままを受け入れ、経験を積み上げる。それ以外にやることはない。今やっと、職人としての第一歩を踏み出したのかもしれない。


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