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執筆者の写真Mariko Watanabe

山陰中央新報コラム「羅針盤」第12回




こんにちは、女将の麻里子です。


さて、地元紙「山陰中央新報」の日曜1面のコラム「羅針盤」の執筆を、タルマーリー渡邉格が担当しております!藤原辰史さん、内山節さんら著名人が順番に執筆、2カ月に1回くらい登場します。

いつも新聞に掲載される直前に、前回の記事をSNSで発信してきたのですが、5月から滞っていました…。

なぜならここ数ヶ月、なかなか大変だったのです…。その理由がこの2023年9月3日掲載分に書かれていますので、いちはやく公開します。


今までのアーカイブも、ぼちぼち公開していきますね。

どうぞお楽しみに!


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2023年9月掲載

羅針盤 糖尿病の現実と向き合う

タルマーリー・オーナーシェフ 渡邉 格


 重度の糖尿病と診断され、8月1日から3週間入院した。父が糖尿病で、私も20代で血糖値が高いと診断されたことがあったのだが、起業してからは現実に向き合うことを恐れて健康診断をしていなかった。


 今回医師から、恐らく5年ほど前から病気が悪化したのではと言われた。神経障害を併発し、手足はしびれ、右目の視界はぼやけている。これは多分これからも治らないので、一生付き合っていくしかない。


 実はここ数カ月は、死を覚悟するほど具合が悪かった。体重が落ち、足指の付け根が痛くて眠れない日もあった。時々目の炎症を起こし、光に当たると激痛が走った。そして少し疲れると意識を失うように寝てしまう。さすがの私も体がおかしいと分かっていたが、時々調子の良い時があると変にポジティブになった。まだ大丈夫だろう。ストレスで体調がおかしいだけだろう。


 私だけかもしれないが、なぜ人間は真っ正面から現状の問題を把握することができないのだろうか?


 素直に白状すると、私はいいものを食べてさえいれば大丈夫だ、と思い上がっていた。原材料がいいお酒だったら少しくらい飲み過ぎても体を壊すことはない、と思っていた。


 しかしこれは大間違いだ。「正しいことをしている」という思い上がりほど怖いものはない。食に対する態度だけではなく、「自分の全てが正しい」という勘違いにつながったように思う。さらに問題は、無意識に「悪」を排除しようとしていたことだ。


 私の場合、野生の菌による発酵を通じて学んだことから、化学物質を否定したり、商業主義と結び付いた科学を否定したりしてきた。その思考が年々加速している自分に気付かなかった。これは、問題を起こした有名人をネットでたたくような「正義中毒」に通じる。


 もっと恐ろしいのは、長い間「正しい」ことに酔っていると、概念が固定化されることだ。そうなると、いつも同じように繰り返す日常に心地よさを感じるようになり、思考停止が始まる。現状維持のために空気を読むようになり、雰囲気に流される。そのようなマインドが、問題を真正面から把握することを避けさせるように思う。


 そんなときにけがをしたり、病気になったりすると、自分の人間活動が持続不可能になっていることに気付かされる。だから今こそ考えなければいけない。


 私はずっと病院に行くことを避けてきたが、今回の診断を機に、今は毎日3回薬を飲んでいる。かつての自分は、発酵環境に影響する化学物質を取らないようにしていたから、今までの思想と現状の違いは最大の悩みである。


 だが、今は生きるために現代医療の恩恵を受けないわけにはいかない。問題が起きれば、そのたびに思考し、葛藤して、自分で答えを見つけていくしかない。一つ一つをしなやかに判断しながら、より良く生きていきたいものである。


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