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  • 執筆者の写真Mariko Watanabe

山陰中央新報コラム「羅針盤」第1回


山陰の地元紙「山陰中央新報」の日曜1面のコラム「羅針盤」の執筆を、タルマーリー渡邉格が担当することになりました!

藤原辰史さん、内山節さん、片山善博さんなど、8名の著名人で順番に執筆、2カ月に1回くらい登場します。


初回10月3日掲載のコラムを、以下に記します♪


そして第2回目は12月12日(日)です!

「山陰中央新報」購読者の皆さん、どうぞよろしくお願いします。


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2021年10月3日掲載


<羅針盤> カビを食べる 智頭に豊かさの最先端 タルマーリー・オーナーシェフ 渡邉格


 私には毎年、夏にやる仕事がある。それは、カビたご飯を食べること。米を1粒食べてみて、口の中にカビ臭さが広がったら、これは失敗…。そしてまた新しく米を蒸してカビが降りてくるのを待ち、米が緑色にカビたらまた食べて、甘く感じたら成功!

 これは、空気中から野生の麹菌を採取する作業だ。

 鳥取県智頭町で「タルマーリー」という店を経営している。廃園になった保育園を改装し、妻と7人のスタッフと共に、野生の菌だけで発酵させるパンとビールの製造販売、カフェ事業を展開している。

 私も妻も東京出身なのに、縁もゆかりもない智頭町にたどり着いたのは、より良い発酵をする環境を求めた結果だ。特に麹菌は水と空気の奇麗な自然環境でないと採取できない。

 私たちは麴菌と米で日本酒を仕込み、それで酒種パンを作る。麹菌は酒やみそ、しょうゆなど日本の伝統的な発酵食品に多く利用されているが、現代では大量生産しやすいように、科学的に純粋培養した麹菌を購入して使うのが一般的だ。

 しかし江戸時代まで人々は日常的に、野生の麴菌を利用していた。私はその方法を復活させたいと試行錯誤してきたのだが、そのためには、昔のような環境を整える必要があると気付き、環境だけでなく、自分の身体も、当時は存在しなかった化学物質をできる限り取らない生活をしてみたところ、感覚が敏感になってきた。

「カビなんて食べて大丈夫なの?」と言われるが、これまで体調が悪くなったことはない。むしろ、うま味調味料などの添加物を多くとると具合が悪くなるようになった。

 昔の暮らしを意識して実践してみると、当時の人々の常識や喜びもよみがえってくるような気がする。すると、「不便で辛い」とイメージしていた昔の暮らしは、実はむしろ今より豊かだったのかもしれないと思うようになった。

 現代は次々に新技術が生み出され、おかげで私たちはより便利になったと信じている。しかし一方で職人は昔ながらの技を失い、仕事への喜びを失っているのだ。

 このような関心を持つ私のフィールドとして、山陰はまさに最適。僻地からこそ、まだ辛うじて昔ながらの技や知恵が残っている。

 人間にとって幸せな働き方や暮らしを復活させるために、山陰は最先端地域といえるのではないか。

 これから私はこのコラムで、伝統的な技を掘り起こす職人の視点から、現代社会の問題点や真の豊かさについて語りたい。


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新たな執筆者/今回から自家製酵母のパンやビール作りを通じて、暮らしや経済の情報を発信する渡邉格氏が新たに加わります。ご期待ください。


プロフィル/わたなべ・いたる 東京都出身。2008年に妻・麻里子さんとの共同経営で千葉県内にタルマーリーを開業。東日本大震災後、岡山県に移り天然麹菌の自家採種に成功。年に鳥取県智頭町へ移住。妻との共著に『菌の声を聴け』(ミシマ社)。50歳



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