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執筆者の写真Mariko Watanabe

発酵環境を整える



タルマーリーの新しいパン工房。まずやらなければならないのが、天然菌の環境をつくること。

工房の内装工事では、壁に漆喰を塗ったり天然塗料を使うなど、できる限り化学物質を使わず、菌の住み心地の良い環境を作る努力をしました。

しかし、いざ自家製酵母パンを作ろう!と思っても、まずは菌の環境を整えることからコツコツ始めるしかありません。とにかくどんどん酵母を育て、パンの発酵に良い菌に棲みついてもらう努力を続けます。

そして実際にレーズン酵母、ビール酵母、全粒粉酵母などの培養を始めましたが、面白い現象が起こっています。

一番培養が簡単なレーズン酵母。瓶にレーズンと水を入れておくと、レーズンの皮や空気中にいる酵母が、レーズンの糖分を食べてブクブク発酵し始めます。

しかし、イタルが仕込んだらちゃんと発酵するのに、スタッフが仕込んだらうまくいかない…という現象が起きているのです。

なぜこんなことが起きるのか?とにかく原因として考えられる要素を排除していくしかありません。

2008年にタルマーリーを開業して数ヵ月後、私たちは“天然菌”というキーワードに出会い試行錯誤を始めたのですが、それから天然菌の発酵醸造に関して多大なアドバイスをくださったのが、医学博士の三好先生でした。

三好先生はアレルギーや化学物質過敏症などに対して一切薬を使わず、衣食住の生活環境を改善する診療をしておられます。先生は次のような事実を教えてくれました。

「天然菌で発酵食品を醸造するとき、揮発性化学物質の影響によって異常な菌が発生し、これまで通りの発酵ができなくなる場合があります。原料に使用される肥料や農薬だけでなく、作る人の衣食住に関わる化学物質(合成洗剤や防虫剤、化粧品など)が悪影響を及ぼす場合があります。」

このことを早速、スタッフ全員に伝えました。すると、みんな素直に生活を見直そうと動き始めてくれています。

レーズン酵母の仕込みに失敗したスタッフは最初かなり落ち込んでいましたが、その次の日からお化粧をしないで来るようになりました。そして、

「洗濯にはどんな洗剤を使ったらいいんでしょうか?」

と、家庭で合成洗剤を使うこともやめようとしています。

「タルマーリーのパンを絶対に作りたいんだ!」

という意欲がひしひしと感じられ、イタルも私もそれにきちんと応えなければ…と気持ちが引き締まります。

三好先生はこうも言っています。

「さらに心の状況が発酵醸造に影響する、と言われることもあります。天然酵母のパン屋さんは気持ちが安定している時とイライラしたり不安定な時とでは酵母の働き方が違ってくるそうです。安定している時は出来上がったパンの味はよいのですが、不安定の時は味が落ちるとのことです。

日本酒造りにおいては昔はこれと同じようなことがよくあったそうですが、最近ではほとんどが純粋培養の酵母を使っているのでこういう影響は少ないようです。天然菌の発酵醸造食品は造り手の心が反映するものですから、芸術品と言えるでしょう。」

そう、私たちはタルマーリーというチームで天然菌に向き合い、芸術品を作っていく。

この目標に向かって努力を続けられる人じゃないと、チームの一員にはなれません。

今までの経験上、古民家であっても、酵母環境が良くなるまでには時間がかかりました。

さて、タルマーリーは智頭に移転し、木造の旧・那岐保育園で、新たなスタッフと天然菌でパンやビールを醸造していきます。

これからどんな菌たちが集まってきてくれるでしょうか。

ワクワク、ドキドキ、楽しみです!

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