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韓国講演の記事(ハンギョレ新聞・日本語訳)

  • 執筆者の写真: Mariko Watanabe
    Mariko Watanabe
  • 17 時間前
  • 読了時間: 11分

こんにちは、女将の麻里子です。

さて2025年6月25日にソウルで講演をしたのですが、その際に取材してくださったハンギョレ新聞(イ・ユジン記者)の記事がWEBに掲載されました!


思いのほか長く丁寧な記事にしてくださって、親子3人の写真、キムソミンさんやキムヒョンミ延世大学教授のコメントも、とても嬉しいです!


講演の内容はおおまかに、

・「“パン屋”をやめて、“智頭タルマーリー発酵研究所”に転換する」という経緯

・出産・育児・教育

・身体性と知性

・競争と修行(内田樹先生のおっしゃっていること)

…などです。


下記に日本語訳を掲載しますので、ぜひ読んでみて下さいね。


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『田舎のパン屋が見つけた腐る経済』(韓国翻訳版:「田舎のパン屋で資本論を焼く」)、再び原点から『暮らしの菌』発酵中


『田舎のパン屋で資本論を焼く』渡辺夫妻訪韓

「有名になってスタンダードになった」 反省の末に研究所身体性と知性の合一強調...

「体を動かせば答えが見える」


韓国を訪れた渡邉格・麻里子夫婦。最近、パン屋を閉め、事業の重心を研究所へと移した。(写真=キム・ジンス主任記者 jsk@hani.co.kr)
韓国を訪れた渡邉格・麻里子夫婦。最近、パン屋を閉め、事業の重心を研究所へと移した。(写真=キム・ジンス主任記者 jsk@hani.co.kr)

智頭タルマーリー研究所、渡邉格・麻里子夫婦


『田舎のパン屋が見つけた腐る経済』(韓国翻訳版主題:「田舎のパン屋で資本論を焼く」)の主人公、渡邉夫妻が驚くべき知らせを持って韓国を訪れた。パン屋をやめたという。 彼らが計画した人生第2幕もまた、並々ならぬ理由と決意があった。

先月25日夕方、渡邉格(54歳-以下、イタル)と渡邉麻里子(47歳-以下、麻里子)夫妻の果てしない挑戦と変身に、耳を傾ける場が設けられた。ソウル市マポ(麻浦浦区)の共有空間「プラットフォーム・ダル」で、エコフェミニズム研究センター「ダルグァナム(月と木)」、延世大学トラスト(T.R.U.S.T)の「ドルボム経済」研究チームが一緒に行った対談会だ。大きなビールタンクを移転先に引っ越す作業をして、翌日早朝に出発し飛行機に乗ったという夫婦はやや疲れた様子だったが、環境保全型地域内循環の協同体を実現してきた過去17年間の実験を紹介する間、エネルギーに満ちていた。この日の対談では、主に経営を任された麻里子さんがマイクを握り、「鳥取県の山奥の智頭町という町で事業、もしくは修行をしている人」と自身たちを自己紹介。


「私たちは野生の発酵菌を使ってパンとビールを作ってきました。人の心と体が健全であれば、パンもビールも美味しく育つ。変な言い方ですが、菌はペットや動植物と同じように人間と関係を持っています。世話をする人の気分や体調が悪いと、動植物がちゃんと育たないのと同じ理屈です」。


2002年、二人は勤めていた会社に思い切って辞表を出し、競争と利益追求というコンベヤーベルトのような世界から降りて、資本主義社会の外へと脱出した。格さんはベーカリーで数年間、パン作りを学び、過酷な修行を積んだ。

そして2008年、ついに夫婦の名前をとって「タルマーリー」というパン屋のブランドを立ち上げた。


彼らが店を構えたのは、東京を離れた千葉県いすみ市。人口およそ1万5000人の小さな町である。古民家に棲みつく天然の酵母菌、澄んだ空気と水、そして農薬を使わない自然栽培の農産物を使って、パンを焼いている。

発酵、循環、利益を出さないこと、そしてパンと人を育てること。それが彼らの目指す姿だった。素朴にパンを焼いて売り、お客さんたちと会話を交わす。その時間が何よりの幸せだった。


菌が気持ちよく遊べる環境を作るには、村の森や川、田んぼなどの自然環境を保全する必要があることも知った。地域の生産と消費の好循環を実現し、腐敗する経済のかわりに、「循環」と「発酵」に焦点を当てた新しい経済を夢見た。生産・消費・分解という自然のサイクルを経済原理に持ち込んだのだ。しかし、不安もあった。

“子どもも、スタッフも、酵母も、私たちも、うまく育っているのだろうか?”


彼らが‘パンッ’とブレイクしたきっかけは、本を出したときからだった。2013年に最初の本『田舎のパン屋が見つけた腐る経済』(韓国翻訳版主題:「田舎のパン屋で資本論を焼く」)が出版され、翌年、韓国で翻訳版(渡邉格著、チョン・ムンジュ編、ザ・スプ)が出版された。韓国語版はすぐにベストセラーとなり、これまでに22刷を重ね、6万部以上売れた。2021年には『菌の声を聴け』(韓国翻訳版:「田舎のパン屋で菌の声を聞く」)(渡邉格・麻里子著、チョン・ムンジュ編、ザ・スプ)が翻訳された。渡邉夫妻が以友学校(이우학교)のウ・ギョンユン-キム・チョルウォン教師と行った対談集「天然菌から見つけた古い未来」(チョン・ムンジュ編、宇宙少年社)(‘천연균에서 찾은 오래된 미래’(정문주 옮김, 우주소년))も同年に出版された。一緒に韓国を行き来していた夫婦の長女モコは防弾少年団(BTS)の熱烈なファンになり、二人は両国の文化をより深く知るようになった。


夫妻の長年の知人である日本の思想家、内田樹教授が合気道道場で修行するのに対し、夫妻はタルマーリーを修行の場と捉えている。夫妻は、暮らしの中での修行を「より長く生きる力を養うこと」と定義している。また、野生の「菌の活動」を重視した。菌は巨大な脳のように地球の生命活動を司り、菌とすべての生物が芸術的につながっていることに気づいたからだ。ご夫妻は、このような菌とどのように共生するか、菌のように自分たちも他者とうまく付き合えるかを熱心に考えた。パン屋でも身体の動きやチームワークを研究し、道具や機械の扱い、大工の技術まで身につけながら修行に励んだ。出産や育児も、タルマーリーの修行と同じように実験と実践の連続だった。二人とも、身体で感じ、身体感覚で鍛えた。


「夫が伝統的な方法で菌を採取するように、私も伝統的な方法で子育てができるかどうか実践してみた」と麻里子さんは言う。二人の子どもを自然の中で育てた。 病院で第一子を出産したときは主体的に身体性を発揮できたという感覚をもてなかったので、第二子は自宅で助産師を呼んで出産した。身体と知性の関係、人間と目に見えない存在(菌)との関係やつながりを実験することに躊躇せず、思考は柔軟でありながら芯がしっかりしていた。


「競争社会の中で、出産や育児に対して否定的な考えを持つ人が多い中、私自身は(子どもと)深くつながっていると感じていました。このような考えは、日本では女性を「子供を産む性別」に固定化しているという批判も受けるかもしれない。しかし、私のユニークな経験を明らかにしたいだけ。私は、母として、配偶者として、経営者として、分断されることなく統合された顔を持ちたかったのです。」


タルマーリーにパン作りを習いに来た都会の高学歴の人たちは、ほとんどが立派な志を掲げていたが、実際にはパンを作るだけの身体性がなかった。二人はその姿を見て、日本の教育が間違っていると感じた。子どもたちが世界を生きていくために必要な2つの力を併せ持てるように育てたかった。 経営者としても、二人は体を動かすことを怠らなかった。頭ばかり使っていると、従業員に過酷な労働を強いることになることを知ったからだ。


「パン作り、子育て、地域の暮らしには、体を使いながら考える身体性と冷静な知性の統合的な実践が必要。体を使い、動かして、考え直し、また体を動かすという繰り返しが重要です。体と頭の使い方を身につけることが、人間としての能力を伸ばすことだと思う。」(麻里子さん)。


一日24時間親と一緒に暮らし、大人の仕事と暮らしを目の当たりにして育った子どもたちは、村のコミュニティの中で力強く育った。 娘のモコは中学3年生から村の先生から韓国語を学び、独学を経て延世大学の文化人類学科に進学した。息子のヒカルはイタリア語を学びたいと言った。母親は、対面教育が可能なイタリア語の先生を熱心に探した。「田舎でも適切な先生を必ず見つけて学ばせたかった」という。自然主義育児も教育も、これでいいのかという疑問符を抱きながらも、結果的にはこの家族に合った生活だった。


25日、渡辺夫妻と娘のモコさん(中央)が参加者と話をする。幼い頃、防弾少年団(BTS)の熱烈なファンになったモコさんは、日本で韓国語を学んだ後、延世大に留学してきた。キム・ジンス主任記者 jsk@hani.co.kr
25日、渡辺夫妻と娘のモコさん(中央)が参加者と話をする。幼い頃、防弾少年団(BTS)の熱烈なファンになったモコさんは、日本で韓国語を学んだ後、延世大に留学してきた。キム・ジンス主任記者 jsk@hani.co.kr

しかし、営業所に押し寄せる客が耐えられないほどになってしまった。パン屋が有名になるにつれ、田舎の隅々まで朝早くからパンを買いに来る客が列を作り、パンはあっという間に売り切れてしまった。追い打ちをかけるように、パン屋の中心的な従業員も仕事を辞め、多忙な日々を過ごした。「成功」のように見えたが、幸せではなかった。夫婦は「これでいいのか、本当に私たちが望んだ人生なのか」と問いかけた。


タルマーリーは2011年の東日本大震災と福島第一原発事故後、岡山県勝山に移り住み、その後、人口6000人の小さな町、鳥取県智頭町に移り住んだ。人間を追いかけてというよりは、「菌を追いかけて移動してきた」と麻里子さんは言う。智頭町へ行った後は、クラフトビールを製造した。大企業の大量生産体制から脱却し、タルマーリーならではのビールを作りたかった。 パンを作るときと同じように、長い修行を経て、格さんは熟成ビールの達人になっていった。周辺農家の無化学肥料・無農薬農産物で最高のビールを作りたかった。 ビールは大企業のビールとは違う、菌が導くままに作られた世界で唯一無二のものだった。


昨年、格さんの体調が悪くなり、パン屋を畳む代わりに、夫婦は「智頭タルマーリー研究所」を開き、事業の重心を移した。その間、毎日早朝にパンを作り、その日のうちに売り切らなければならないことも大変だったが、積極的なマーケティングを行い、顔も知らない大勢のお客さんにパンを売らなければならないビジネスはもっと大変だった。また、弟子制のパン作りが修行であるという考えも、若いスタッフには自然に伝わらないことも認めざるを得なかった。


「資本主義の変化が早くなり、競争も激化した。パンを作り、マーケティングまで行うベルトコンベヤーに乗りたくないという思いが強くなった。職人として田舎でパンを焼きながら、それを一つの修行・修練として考えてみたかったが、今は見習い修行が当たり前だった江戸時代でもなく、効率を重視する若い世代には、何年も修行しろというのは違和感があるかもしれない。私たちも50代になり、体力が落ちてきたので、パンを作っても体験中心で、来てくれる人と交流する方が合っていると思った。」


ご夫妻が暮らす智頭町は、20~30代の女性減少率が60.9%に達する消滅可能性の高い自治体。夫妻がモデルにしたのは、1980年代のイタリアの「アルベルゴ・ディ・プーゾ」という田舎町再生プロジェクトだった。古い田舎の村全体を分散型の宿泊施設に変えるというもので、夫婦は廃園になった保育園を改修するなど、古い建物を利用したプロジェクトを開始した。 しかし、村人やジェンダー認識の違いなどで苦労し、場所を移し、現在は別の地域で事業を進めている。夫婦はこれまでに5棟の建物を改修し、カフェや宿泊事業を行っている。「新たな文化を創り出すのはとても難しいことでしたが、地元の人たちには誇りを、旅行者には新鮮な体験を与えることができました」と麻里子さんは言います。


南海銀砂書房で行われたブックトーク。左から娘のモコさん、麻里子さん、渡邉格さん、そしてこの日通訳をつとめたエコフェミニズム研究センター「ダルグァナム(月と木)」イ・ユンスク研究員。キム・ソミン提供
南海銀砂書房で行われたブックトーク。左から娘のモコさん、麻里子さん、渡邉格さん、そしてこの日通訳をつとめたエコフェミニズム研究センター「ダルグァナム(月と木)」イ・ユンスク研究員。キム・ソミン提供

25日のイベント終了から2日後、渡邉夫妻は慶尚南道南海郡常州面(南海郡常州面)の銀の砂の村書房(은모래마을책방)が開いた講演会で再び地域の聴衆と会った。申込者が殺到し、小さな本屋で開催していたイベント会場を近くの総合福祉会館に急遽変更した。

パン屋をやめたという知らせに聴衆が驚くと、イタルは「これからもパンとビールを作り続ける」と安心させた。ただ、「冷蔵庫に5~6年熟成させたビールがあるのですが、とても可愛くて貴重なのでどうしようか迷っています。今後は貴重すぎて売りたくないと思うようなものを作りたい」と語った。


「資本主義の最大の問題は画一化だ。私たちも有名になることで一つのスタンダード、基準になってしまった。私が職人として、資本主義の画一化に手を貸したのではないか、と思った。 それならいっそのこと、不味いものを作ったほうがいい。今はもう少し特殊なビールを作ろうとしている。一人でパン・ビールを作り、ピザを焼き、コーヒーも焙煎する、徹底した作り込みの作業を始める予定だ。」(格さん)。


麻里子さんは、「パン屋をやめるというのは、勇気ある決断だったが、同時にとても苦しい決断でもあった。

私たちがこれまで何を成し遂げ、何に失敗してきたのかを振り返りながら、いま再び原点に立ち返っている。

ひとつの実験が失敗に終わったとしても、それで終わりではなく、また別の実験が始まる。私たちが諦めず、次の世代にどんな意味があるのか、何を与えたのかを話しながら続けていきたい」と話した。


キム・ソミン(南海在住、銀の砂の村書房(은모래마을책방)の書店主は「職人は、体の感覚で暮らしを営む身体性と冷静な知性を兼ね備えた人という言葉が記憶に残っている。地域で暮らすということは、首都圏を中心とした“序列”の外に身を置くことであり、多様性を社会にもたらす行為でもある。だからこそ、ただ地域で生きること自体にすでに価値があるのだと感じ、勇気をもらえた。」と話した。


延世大の文化人類学科のキム・ヒョンミ教授は「天然菌が定着する場所を探して3回も移住したという話が感動的だ。人間中心主義ではなく、菌類中心主義だからだ。希望を持って様々な実験をしながら絶え間なく勉強すること自体が驚異的な人生だ」と感想を述べた。


腐敗しないお金が支配する社会で負けることなく、発酵と腐敗の間を行き来しながら修行し、反省し、変化する彼らの人生から、よく熟成されたパンとビールのほのかな香りが漂っていた。


イ・ユジン 이유진 シニア記者

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