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執筆者の写真Mariko Watanabe

山陰中央新報コラム「羅針盤」第6回


 地元紙「山陰中央新報」の日曜1面のコラム「羅針盤」の執筆を、タルマーリー渡邉格が担当しております!藤原辰史さん、片山善博さんなどの著名人が順番に執筆、2カ月に1回くらい登場します。


 第6回2022年9月掲載のコラムを、以下に転記します♪(第5回はこちら


※いつもは新聞掲載の直前に前回分を公開しているのですが、この夏に渡邉格がケガをしたことを心配してくださっている方がいるかも…と、その顛末を書いたこの記事を早めにお披露目することにしました。


 そして第7回目は2022年10月30日(日)に掲載されますので、「山陰中央新報」購読者の皆さん、ぜひ紙面をチェックしてくださいね。


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2022年9月掲載


<羅針盤> 予定外の療養生活 「無駄」が役立つときも

タルマーリー・オーナーシェフ 渡邉格


 秋の気配を感じるこの頃。今夏は7月下旬から8月上旬が猛烈に暑かったが、その頃に私はほとんど夢の中にいた。事件が起こったのだ。

7月末日、朝から照り付ける太陽の下、私は一人でペンキ塗りをしていた。智頭駅から徒歩10分に位置するボロボロの空き家を2年前から改装し、やっとそろそろ1棟貸しの宿をオープンしようとしている。その庭に屋根をかけるために大工さんに柱を立ててもらった。毎度のこと、経費削減のため塗装はDIYでやることにした。柱の高さは3メートル以上だから、脚立のてっぺんに立って作業していた。地面は砂利敷きで足もとがグラグラするので、慎重に仕事を進めた。

「やっとこれで完成!」と、脚立から降りようと2段目に足をかけた瞬間、倒れた。足が脚立に挟まれ、そのまま放物線を描きながら、顔面から地面に激突。恐らくしばらく気を失ったのだが、幸運にも意識が戻り、建物の中に入ってスタッフに声を掛けた。

それから救急車で病院に運ばれ、CT検査の結果、顔面骨骨折。左の頬骨が陥没している。顔の骨は元に戻らずそのまま固まってしまうので、見た目も変形したままになるかもしれない上に、神経を圧迫して皮膚感覚が戻らなかったり、口の開きが悪くなったりする可能性があるからと、手術をすすめられた。骨が固まる前、つまり1週間以内に手術するか否かを決めて下さい、とのこと。

1週間で判断…非常に難しい。顔の腫れがひいた後にどのくらいの変形になるかわからない。そして確かに、口が大きく開かない。食に命をかけている私にとって、これが一番の問題である。好物のにぎりずしをパクリと食べられなくなるのか。

妻と共に迷った挙句、手術は受けないことにした。それからひたすら自宅で療養した。

面白いことに、人間こんなに眠れるのか?というほど、眠った。1週目は24時間の内、起きているのは2~3時間ほどだった。

口を開けると痛かったが、腹が減る。起きるたびに、好きなスイカを頬張った。

そして1か月後の現在、顔の変形はほとんどなく、すしも一口で食べられる。

このように緊急事態には人生経験、思考方法、判断力など、あらゆる人間力が試される。若い頃に仕事もせずにだらだら寝ていたことや、食に対する執着が、こんなふうに役立つときがくるとは、思ってもみなかった。

科学的、合理的判断が主流の世の中だが、一寸先は闇である。変化に対応できるためにも、幼い頃から「無駄」と呼ばれる遊びや経験を大いにしてほしいと思う。


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