山陰の地元紙「山陰中央新報」の日曜1面のコラム「羅針盤」の執筆を、タルマーリー渡邉格が担当しております!藤原辰史さん、内山節さん、片山善博さんなど、8名の著名人で順番に執筆、2カ月に1回くらい登場します。
第3回2022年2月掲載のコラムを、以下に転記します♪(第2回はこちら)
そして第4回目は2022年4月17日(日)に掲載されますので、「山陰中央新報」購読者の皆さん、ぜひ紙面をチェックしてくださいね。
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2022年2月13日掲載
<羅針盤> 冬の一斉休暇 菌の声聴き働き方改善
タルマーリー・オーナーシェフ 渡邉格
自家製酵母でパンやビールを作り出すタルマーリーは開業当初から毎年、約1か月の冬季休業を設けている。今年も1月下旬から2月下旬まで店は休みで、その間、スタッフは有給休暇だ。私たち夫婦は経営者として日々仕事はあるのだが、店が完全に休みというのは、やはり心安らぐ時間だ。
なぜ一斉に休みを取るのか?しかも有給だから、休業中も出費はかさむ。経済合理性を追求する考え方ではあり得ない。しかしタルマーリーとしては菌の声に従った結果、そうせざるを得ないのだ。
野生の麴菌を採取しようとしても、アオカビが大量に発生してしまうときがある。その現象が起きた数か月後にスタッフが辞めてしまう…という恐ろしい経験を何度もしてきた。だから、アオカビが出る度に労働環境を良くしようと努力した。働く時間を短くするために、開店時間を遅らせたり、ラストオーダーを早めたり、人員を増やしたり…。
更に昨年からは社員寮に関わる経費も会社負担にした。家賃、水道光熱費やネット環境などが無料となれば、スタッフは可処分所得が増え、将来への不安を払い去って技術の習得にまい進できるだろう。これもアオカビ対策の一環だ。
アオカビが発生するのはスタッフの精神状態が悪いとき…というオカルトっぽい分析ではなく、きちんと科学的に分析せよ!という声が聞こえてきそうだ。
では仮に科学的分析をした結果、それらの相関関係がなかったとしよう。それを受けて、労働環境を改善せずに経済合理性を追求できるかもしれない。しかしそうすると結局は合理性の競争、つまり他企業との価格競争に巻き込まれる。そうなると労働環境にも自然環境にも配慮ができなくなる。それで誰が幸せになるのだろう?むしろ、見えないモノを信じる結果、すべてが良くなるならそれでいいではないか。
哲学者・内山節氏の「日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか」(講談社)には、昔の日本人がキツネやタヌキや妖怪などの存在によって社会を円滑にまわしていた様子が書かれている。例えば「オオサキ」というてんびんが好きな妖怪が家に憑くと、収穫したコメを量るときにはかりに乗ってしまうから、その誤差が累積して貧乏になっていく。貧富の差を個人の能力のせいにはせず、オオサキのせいにするとはなんて思いやりのある社会だろう。
科学的態度を批判するつもりはない。しかし近年は科学的分析に頼りすぎではないか?虫の知らせなど、私たちには現状を即座に判断して解決する能力が備わっている。ときには直感を磨くことも大切なことではないだろうか。
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