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山陰中央新報コラム「羅針盤」第18回

執筆者の写真: Mariko WatanabeMariko Watanabe

 こんにちは、女将の麻里子です。


 さて、地元紙「山陰中央新報」の日曜一面のコラム「羅針盤」の執筆を、タルマーリー渡邉格が担当しております!藤原辰史さん、内山節さんら著名人が順番に執筆、2カ月に1回くらい登場します。


 第18回2024年12月29日掲載のコラムを、以下に転記します。


 次回は2025年3月9日掲載予定です。「山陰中央新報」購読者の皆さん、ぜひ紙面をチェックしてください♪

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 2024年は私たちにとって大きな転換期だった。


 持続的に循環する自然の中で、人間の経験は豊かに蓄積されていく。私はその流れの中で生きていると思っていた。しかし今になって気付くと、この数年は自分の身も心も「消費」されているようだった。消費とは「使ってなくすこと」。消耗ともいえる。


 7年ほど前から、生産性向上のために設備投資をしていった。さらに町と協同した新たな事業計画が立ち上がり、それに参画するためにも従業員を増やしていった。そして、パンの製造販売、カフェなど、現場の業務は従業員に任せていった。


 しかし、コロナ禍で来客が激減し、なんとか事業を継続させるために、商品を都市へ発送する業務を大幅に増やさざるを得なかった。そうしてお客さんとの対面コミュニケーションは減り、事業の評価は売上高でみるようになった。いつの間にか、ものづくりを追求するより、マーケティングを重視する方向へ進んでいた。


 その渦中で私は、自らの商品や事業に愛着をなくしていた。毎日同じレシピに従って作ったモノが消費されていく…。そんな当たり前の繰り返しで事業が継続できればそれで充分かもしれないが、私はつくり手としての原点を見失っていた。


 例えばビールは一般的に「鮮度が命」といわれているが、私の造る天然酵母のビールは、1年以上熟成させることにより、より深い味わいに変化する。そんなビール造りを追求していくうちに、「もっと熟成させたらどんな味になるのだろう?」と興味が湧いて、販売をしたくなくなる。「売りたくなくなるくらい、ものづくりに没頭する」。この原点を、今年になってやっと思い出すことができた。


 大切なことを忘れてしまった原因は、変化への恐れだ。敵は「自分の中に巣くうマンネリ」であり、それを切り替えるのは本当に難しい。しかし自然や社会の環境が明らかに今までと違う流れを示し、変化のタイミングを教えてくれる。今年はそのサインを受けて、大いに悩んだ末に新しい扉を開くことができた。そして事業方針を「消費」ではなく「循環」に転換すればよいとひらめいた。


 ものづくりに集中するためには、できる限り「雑音」のない環境をつくる必要がある。例えば安価な材料を使った方が利益は上がるかもしれないが、粗悪な材料は心をざわつかせ、その雑音は集中力を妨げる。


 だから、この地域で栽培された良質な農産物を加工できるように、機械へ投資をしてきた。それは当初からの目標である「野生の菌による発酵を起点とした持続可能な地域内循環」を実現するためでもある。さらにそれは、資本主義社会の中で自由に生きるための「生産手段」を手に入れたということである。


 来年からは今よりさらに目標に近づけるよう、マーケティングではなく、ものづくりへ没頭できる体制を築くことに力を注ぎたい。


 この年末から春まで営業を休み、ゆっくり大きく転換をしていこうと思う。また来年、その様子をお伝えします。どうぞよいお年をお迎えください。

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