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執筆者の写真Mariko Watanabe

山陰中央新報コラム「羅針盤」第14回



 こんにちは、女将の麻里子です。

 さて、地元紙「山陰中央新報」の日曜一面のコラム「羅針盤」の執筆を、タルマーリー渡邉格が担当しております!藤原辰史さん、内山節さんら著名人が順番に執筆、2カ月に1回くらい登場します。

 第13回2024年3月3日掲載のコラムを、以下に転記します♪

 次回は2024年5月19日掲載予定です。「山陰中央新報」購読者の皆さん、ぜひ紙面をチェックしてください♪

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 先月、いよいよ娘が韓国の大学へ留学のため、家を出ていった。がらんとした娘の部屋を見ていると寂しくなるので、自分の荷物を運び込んで使うことにした。

 以前にも書いたように、我が家では「手を使う」「体を動かす」ことを重視し、子どもたちには「勉強よりお手伝いが大事」と言ってきた。

 娘は小学校低学年のころからお菓子作りを始めた。親がモノづくりをする姿を見てきたこともあるが、我が家では、市販のお菓子を買ってもらえないという事情もあった。中学年からは弁当や夕食も作り始め、経験を重ねるにつれ、自分が食べたいものを手際良く作れるようになった。

 一方で、私が韓国での仕事を依頼されるようになり、子どもたちも連れていった。そして娘は、K-popアイドル「BTS」のとりこになった。

 思春期でさまざまな悩みを抱え始めた娘に妻が「今、一番やってみたいことはなに?」と聞くと、「韓国語を勉強してみたい」と言った。

 幸いにも近所に先生が見つかり、約1年間、ハングルの基礎レッスンを受けた。その後は独学で、料理をしながら韓国ドラマやバラエティーを見たりして、ネイティブの発音を習得していった。そして高校では「韓国の大学に行きたい」という共通の目標を持つ友人が見つかり、2人で毎日、韓国語で会話をしていた。そして2人とも第1志望の大学に合格し、先日旅立っていった。

 人間にとって最高の環境とは、何かひとつの目的に向かって集中できる状況を指すと、私は思っていた。しかし娘を見ていて、目的以外にやるべきことが多くある状態の方が、能力は最大化するのかもしれないと考え直した。

 娘は親の仕事の都合で何度も引っ越しをした。受験勉強に集中したかった昨年も、無理やり引っ越しをさせられた。しかしそんなむちゃな親のもとで育ったため、何かをしながら勉強する力を磨いた。

 そうして彼女はあらゆる問題を「自分事」として考える力を培った。何度も「転校生」というマイノリティーな立場に身を置くことによって、人間の差別構造はなぜつくられるのかと疑問を持った。特に在日韓国・朝鮮人への差別と歴史的背景に興味を持つようになった。

 ある日、街中で友人と韓国語で話しているとき、中年男性に舌打ちをされたそうだ。そうした経験から集団化した人間が生む暴力性への恐怖や憤りを感じてきた彼女は「人間とは何か」をフィールドワークから学ぶ「文化人類学」を専攻することになった。

 断片的な知識を暗記する勉強法で成長した私には驚きの連続だった。全てのつながりを切り離し、全体を把握する力を失ったことが、環境や政治、社会問題を「人ごと」として受け流す風潮をつくり出しているのではないか。

 私たちはこれからモノづくりを追求しながら、この町をより良くしていきたいと思っているが、それをいかに「自分事」にしていくかが重要だ。外部の町づくりコンサルタントではなく、この町の人々が仕事や暮らしを「しながら」考え、行動していくことが大事だと思っている。


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